大阪地方裁判所 平成6年(ワ)477号 判決 1995年12月20日
原告
日本輸送機有限会社
右代表者代表取締役
松本幸惠
右訴訟代理人弁護士
幸長裕美
被告
アイシン工業株式会社
右代表者代表取締役
西田省二
右訴訟代理人弁護士
門間秀夫
主文
1 原告の主位的請求を棄却する。
2 被告は、原告に対し、金一九三万八八〇〇円及びこれに対する平成六年七月一六日から支払ずみまで年六分の割合による金員を支払え。
3 訴訟費用は、被告の負担とする。
4 この判決は、原告の勝訴部分に限り、仮に執行することができる。
事実
第一 当事者の求める裁判
一 請求の趣旨
(主位的請求)
1 被告は、原告に対し、金二〇三万六三〇二円及びこれに対する平成五年一一月一〇日から支払ずみまで年六分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は、被告の負担とする。
3 仮執行宣言
(予備的請求)
1 主文2、3項と同旨
2 仮執行宣言
二 請求の趣旨に対する答弁
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は、原告の負担とする。
第二 当事者の主張
一 請求原因
(主位的請求の原因)
1 原告は、昇降機の製作及び販売を業とする会社である。
2 原告と被告は、平成四年一〇月一日、兵庫県宝塚市中山台シャトーエスパス内の分譲住宅に設置する階段昇降補助装置四機(以下「本件装置」という。)を原告が製作して、代金八一三万六〇〇〇円で被告に売り渡すとの契約(以下「本件製作販売契約」という。)を締結した。
3 被告の申し入れにより、原告と被告は、平成五年三月一日、本件製作販売契約を合意解除し、被告は、原告に対し、原告がこれまでに要した費用三二三万九四〇〇円とこれにかかる消費税九万七一八二円の合計三三三万六五八二円(以下「本件損害填補金」という。)を支払うことを約した(以下「本件損害填補金契約」という。)。
仮に、平成五年三月一日に本件損害填補金の支払約束がなかったとしても、被告は、原告に対し、遅くとも同年七月一五日までに、右支払を約束した。
4 原告は、被告に対し、文書で、本件損害填補金残金二〇三万六三〇三円の支払を請求し、右書面は、平成五年一一月一一日、被告に到達した。
5 よって原告は、被告に対し、右損害填補金残金二〇三万六三〇三円とこれに対する平成五年一一月一〇日から支払ずみまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求める。
(予備的請求の原因)
1 主位的請求原因2と同じ。
2 被告は、平成五年三月一日、原告に対し、本件製作販売契約を解除するとの意思表示をした。
3 原告は、本件製作販売契約を締結後、右解除までに、部品を購入して製作を始めており、これらの部品や半製品の転用は不可能であり、原告は、右解除によって、別表記載のとおり、合計三二三万九八〇〇円の損害を受けた。
4 よって、原告は、被告に対し、右損害賠償金のうち既に被告から支払を受けた一三〇万一〇〇〇円を控除した残金一九三万八八〇〇円とこれに対する右解除後である平成六年一月二六日(予備的請求の申立書の送達の日の翌日)から支払ずみまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求める。
二 請求原因に対する認否
1 主位的請求原因1の事実は認める。
2 同2の事実は、契約日を除き、認める。
3 同3の事実は否認する。
本件装置の製作は、リバー産業株式会社(以下「リバー産業」という。)から、平成四年八月ごろ、被告に対し引き合いがあり、そこで、被告と原告が本件製作販売契約をしたものであるが、リバー産業は、平成五年二月ごろ、突然、本件装置の製作の中止を申し入れてきた。
4 同4の事実は認める。
5 予備的請求原因1の事実は、契約日を除き、認める。
6 同2、3の事実は争う。
三 抗弁
被告は、原告及びリバー産業と本件装置の製作に関する清算について話し合った過程において、被告の代表者と原告の担当者であった高田裕至は、原告と被告との間で問題となっていた興洋染織宛のエレベーターの製作、設置の請負代金一三六九万九〇〇〇円であったことから、これと右清算金を含めて一五〇〇万円で右エレベーターの製作、設置の請負代金の問題と右清算を解決することを合意した。したがって、右清算金は、一三〇万一〇〇〇円である。
四 抗弁に対する認否
抗弁事実は否認する。
第三 証拠
証拠は、本件記録中の証拠関係目録記載のとおりである。
理由
一 原告の商人性、本件製作販売契約
主位的請求原因1、2の事実は、本件製作販売契約の締結日を除いて、当事者間に争いがない。
二 合意解除、本件損害填補金契約
1 本件装置の製作、売買は、リバー産業が被告に対して発注し、被告と原告が本件製作販売契約をしたものであるところ、リバー産業が、平成五年二月初め、原告の担当者であった高田裕至に対し、本件装置の製作を停止を申し入れたため、高田裕至は、被告代表者に、この製作を延期するのかそれとも中止するのかをリバー産業に確認するよう求め、被告代表者は、リバー産業に確認のうえ、高田裕至に製作を中止することを連絡した、その後、被告とリバー産業は、右中止による損害の清算の交渉に入り、平成五年二月一九日の交渉には、高田裕至も立ち会い、原告は、被告に対し、右中止による損害の填補を請求した(証人高田裕至、被告代表者)。
右事実によれば、リバー産業が本件装置の製作中止を決定している限り、被告が原告に対し、右製作の継続を求めることは事実上ありえないのであり、被告も右製作の中止を原告に連絡し、以後、リバー産業と清算交渉に入っているのであるから、被告は、原告に対し、平成五年二月初めごろ、本件製作販売契約の解除の意思表示をしたものと認められ、他方、原告も、右製作中止の申し入れに対し、汎用性のない本件装置の製作を続けることは損害を大きくするだけであるから、右解除を受入れたものであることが認められる。
2 しかし、原告と被告との間に、本件損害填補金契約が成立したと認めうる証拠はない。
原告代表者は、被告代表者の依頼で、平成五年七月一五日、被告代表者とともに、リバー産業に赴いて、清算について話し合ったが、話合いは専ら被告代表者とリバー産業が行い、その途中や帰途、被告代表者は、原告代表者に対し、「お宅の分(本件装置の製作に関する損害の填補)は、うち(被告)が責任を持って払う」と言っており(原告代表者)、原告からは、右当日までに、被告に対し、本件装置の製作に関する金額の記載された使用部品単価表及び出来高表(二通)が交付されていた(甲二、乙二、三、証人高田裕至、被告代表者)のであるから、被告代表者は、原告の請求する損害額を認識したうえで、右発言をしているものであることが認められるが、被告代表者は、被告が損害を受けることを回避するため、リバー産業からできるだけ原告の要求額の清算金を獲得するための交渉に重点を置いていたものであって、右出来高表の内容を精査しておらず、右発言は、強く清算を求める原告代表者に対し、その場を繕うだけのものであり、原告代表者も、被告代表者に騙されたと考えていて、この発言を信用してはいなかった(被告代表者、原告代表者)のであるから、被告代表者の右発言のみをもって、本件損害填補金契約が成立したものということはできず、他に本件損害填補金契約が成立したと認めうる証拠はない。
そうすると、本件損害填補金契約に基づく原告の本件主位的請求は理由がない。
三 本件製作販売契約の解除
被告が本件製作販売契約の解除をしたことは、前二1定のとおりである。
四 填補賠償額の合意
被告は、被告の代表者と原告の担当者であった高田裕至が、原告と被告との間で問題となっていた興洋染織宛のエレベーターの製作、設置の請負代金一三六九万九〇〇〇円と本件装置の製作中止に伴う清算金を含めて一五〇〇万円とすることを合意したと主張し、被告代表者は、これに沿う供述をするところ、確かに、被告代表者が、平成五年五月ごろ、高田裕至に対し、右興洋染織の請負代金を含めて一五〇〇万円で決着できないかとの提案をしたことはある(証人高田裕至)。
しかし、右提案を高田裕至が承諾したという被告代表者の供述は、同人が興洋染織宛のエレベーターの製作、設置には、これを原告が他の業者に製作させたという問題があって、代金の支払について紛争となっていたといいつつ、この代金は減額をしないまま金額を支払っており(甲五、被告代表者)、被告代表者は、既に認定したように、平成五年七月一五日原告代表者に対し、原告が請求する損害を填補するとの発言をしていること及び証人高田裕至、原告代表者の各供述と対比すると、被告代表者の右供述は、到底採用することができず、他に原告が右被告の提案を承諾したと認めうる証拠はない。
五 解除による原告の損害
1 原告は、平成四年一〇月一日、被告から本件装置四基の製作の発注を受け、当初、本件装置の納期を平成五年一月ごろと予定し、二月ごろから現場での設置に着手する予定で、平成四年一〇月ころから製作に入っていて、原告は、必要な資材、部品を購入し、本件装置のうち、昇降機四基の本体の出来高は八〇パーセント、二か所分のガイドレール及び一か所分の給電用トロリーダクトは完成していた(甲二、乙三、証人高田裕至)。
2 原告が前記製作の中止をするまでに本件装置製作のために費やした部品購入費、加工賃等は、三二三万九八〇〇円であり、原告の製作にかかる未完成品はもとより完成品も他に転用ができないものである(甲六、証人高田裕至)。
ところで、右部品の単価は、購入単価ではなく、原告の販売利益が含まれているが(証人高田裕至)、本件製作販売契約の解除は、前認定のとおり、リバー産業の一方的な理由ひいては被告の都合によるものであり、被告は、本件製作販売契約の請負代金に原告の利益が含まれていることを認識していたはずであるから、被告は、原告に対する損害の填補として、右利益を含む請負代金に対する出来高割合から右完成品及び仕掛品の価格を控除した金額の金員を支払う義務があるが、本件製作販売契約の内容は、本件装置の製作とこれを現場に設置することであるから、いま、右設置工事費用を過大に見積って、請負代金八一三万六〇〇〇円の四分の一であると仮定すると、本件装置の製作の請負代金額は六一〇万二〇〇〇円であり、本件装置の製作費は、金額から見て昇降機四基の本体の製作費が主要な部分を占めており(甲二)、昇降機四基の本体の出来高は、前認定のとおり八〇パーセントである。そして、本件装置の出来高を全体として七〇パーセントと想定すると、右本件装置の製作の請負代金額の七〇パーセントの金額は四二七万一四〇〇円となり、他方、本件装置の完成品及び仕掛品は他に転用できず、殆ど無価値に等しいのである。
そうすると、右認定の原告が本件装置製作のために費やした部品購入費、加工賃等が過大であるとはいえない。
そうすると、被告は、原告に対し、右認定の損害額三二三万九八〇〇円から既に支払った一三〇万一〇〇〇円を控除した一九三万八八〇〇円とこれに対する平成六年七月一六日(予備的請求の申立書送達の日の翌日)から支払ずみまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金を支払う義務がある。
六 結論
以上のとおりであって、原告の本件主位的請求は理由がないからこれを棄却し、本件予備的請求は理由があるからこれを認容し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条但書を、仮執行の宣言につき同法一九六条一項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官岩谷憲一)
別紙<省略>